研究概要 |
代表的な導電性高分子のポリアセチレンに種々のドーパントをドープすることによって、室温近辺では金属の銅の値に近い10^5S/cmという高い電気伝導度が得られることが知られている。また、パウリ磁化率や温度に比例する小さな熱電能などからもポリアセチレンは金属になっていると予想される。しかしながら、200〜250k以下の低温では、通常の4端子法による電気抵抗の温度依存性は半導体になることもよく知られている。これは、高分子に特有なフィブリルなどの高次構造の存在や、不均質なドーピングによると考えられている。そこで、ポリアセチレンの高分子鎖に沿った電子による電気伝導が本質的にどのような機構によっているのかを研究して行く上で通常の4端子法による電気抵抗の測定はあまり有用ではない。そこで本研究では微視的な電荷担体の運動を捉えることのできる有用な磁気共鳴法(NMR,ESR)を用いて研究を進めている。92年度は昨年度の研究から明らかになってきたBrドープした試料のNMRT_1^<-1>の変化に富んだ振舞を集中的に調べた。Brの濃度を変えながらSQUIDで磁化率を測り、数パーセントの濃度以上ではパウリ的な磁化率が現われることを確認した。これはBrドープしたポリアセチレンが半導体から金属に転移していることを示している。しかし、ドープした直後のNMRT_1^<-1>は温度の上昇とともに増大するような金属の場合に期待される振舞を示さなかった。しかし、ドープ後の時間経過が長くなるに伴い金属的な振舞が現れてくることを見い出した。その後、ポリアセチレンの水素の代わりにBrを積極的に置換する実験を行ったところ、経時変化と似た振舞を示すことがわかってきた。この現象は、置換した分子量が大きくて重い質量を持つことと、元から存在する陽子核スピン間の相互作用を強く変調することに関連していると考えている。今後これらの点を更に明らかにして行く。
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