研究概要 |
代表的な導電性高分子のポリアセチレンに種々のドーパントをドープすることにより、室温近辺では金属の銅に近い10muOMEGAcm以下まで抵抗値が下がることが知られている.また、パウリ磁化率や温度に比例する小さな熱電能などからもポリアセチレンが金属になっていると考えられている.ところが、実際には200〜250K以下の温度領域では、通常の4端子法による電気抵抗の温度依存性は半導体的で、温度の上昇と共に抵抗が小さくなる振舞を示す.この事実は、高分子に特有なフィブリル等の高次構造による効果や、不均質なドーピングによる為であると考えられている.しかしながら、ポリアセチレンの高分子鎖に沿った電子の伝導がどの様な機構によるのかを研究していく上で、ドープされた高分子結晶の本質的な電気抵抗がどの様な温度依存性を持つかという事は欠くべからざる情報であると言える.そこで、本研究では、磁気共鳴法(NMR,ESR)を用いて、電荷担体の微視的なダイナミクスを調べることを目的とした.陽子NMRのスピン格子緩和時間がスピンを持った電荷担体のダイナミクスを反映するので、その温度依存性を種々のドーパントを含むポリアセチレンについて調べた.その結果は、ほとんど全ての系で期待される金属的な振る舞いが見られなかった.その理由は金属に由来するパウリ磁化率以外にわずかに残留したキュリースピンによる緩和が温度依存性を支配しているためと分かった.その中で、ブロムをドープした系では時間の経過と共に金属的な電子の振舞が支配的になることが見出された.さらに詳しい実験の結果、これはブロムの一部がポリアセチレン鎖の陽子と入れ替わる置換反応のためと分かった.最終的な解析の結果、ブロムのつくるランダムポテンシャルがキュリースピンの動きを押さえ結果として緩和に効かなくなるために世界で初めてポリアセチレン結晶内の金属的電気伝導を直接観測できた.
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