量子力学と非慣性系を組み合わせることによって、既知の諸事実に対して新しい直観的理解を得ること、及び、新事実や新しい型の問題を開発することを目的として研究してきた。(1)慣性系との違いは慣性力が登場することであり、特に「伸縮系」の場合にはそれが調和力となること、その結果「調和振動子のTDSE(時間依存Schroedinger方程式)は適当な伸縮系に移ることによって自由粒子のTDSEに変換される」という「等価定理」を得た。(2)これを用いて、時間に依存するコヒーレント状態やスクィーズド状態など、調和振動子の諸量子状態が「伸び縮みする空間上のGauss型自由波束」という直観的描像によって把握され得ることを示した。また、通常の方法では構成することが非常に困難な、脈動する球状の波束など興味深い波束を閉じた形で構成した。(3)「空間的に一様な電磁場中の荷電粒子は線形加速系と回転系を介して調和振動子と等価になる」ことを示し、荷電粒子の波束の重心運動と内部運動の本質を非慣性系の立場から解き明かした。(4)同様の結果が非線形Schroedinger場の方程式に対しても成立することを示し、ソリトン解の振舞を論じた。(5)Aharonov-Bohm効果を粒子と共に動く非慣性系で定式化し、Berry位相との関係で従来見落とされていた点を、Coriolis力の効果という観点から明らかにした。(6)空間的に捻れた導線に粒子を閉じ込めると捻れがヴェクトル・ポテンシャルと同等の作用をし、「空間幾何学的に誘起されたAharonov-Bohm的効果」が生ずることを証明した。(7)上述の問題は「曲面に閉じ込められた粒子」の問題に継ながるが、後者に関し所謂Dirac量子化法に対して出されていた疑義を吟味し、拘束条件の課し方と「閉じ込めによる有効ポテンシャル」との関連を明らかにした。(8)高さと幅が特殊な「相似則」を保って時間変動するポテンシャル障壁によるトンネル効果を、伸縮系を利用して厳密に解析し、所謂「トンネル時間」なる概念を批判的に吟味した。(9)伸縮系で用いられた「時空のスケール変換」なる概念を応用して、TDSEの拡散方程式的構造を直接検証する実験を提案した。
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