これまでに得られた新しい進展は以下にまとめられる。一つは、EELFSを記述する最も基本的な公式を第一原理の多体問題の表式から出発して求めることができた。その公式を構成する最も基本的な要素は、固体の中で減衰する電子の散乱波とそれに働くクーロン+交換+光学ポテンシャルである。光学ポテンシャルに対するエネルギーシフト定理を用いると計算すべき光学ポテンシャルは、空孔のある状態についてのものと、空孔のない状態についてのものとの2種だけに限られる事が分かった。さらに高速一次電子の散乱波動関数および二次電子(内殼軌道より放出された励起電子)の散乱関数を、サイトT行列展開によって求め、EELFSとEXAFSとを直接比較することができる理論をつくり上げた。 さらに、固体中の原子の光学ポテンシャルを具体的に計算するための方法の開発にとりかかり、電子の運動エネルギーが大きいときにはそれがgAのような積の形で表わされることを見い出した。ここでgはエネルギーに依存する系の中で減衰するプロパゲーター、Aはエネルギーに依存しない分極ポテンシャルである。gは求めるべき光学ポテンシャルを含んでいるので、光学ポテンシャルの計算は自己無撞着に行なわなければならない。gが減衰するという性質から、1サイト近似が正当化され応用に便利な形の光学ポテンシャルが求められた。このポテンシャルを用いて位相シフトを計算するプログラムを現在作製中であり、予備的結果として、Ar原子による電子散乱をうまく記述することがわかった。
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