研究概要 |
平成3、4年度では、主として高速のprobe電子、内殻から放出される2次電子の散乱を同時に記述する公式の導出に力を注いできたが、一応それが終了したので、平成5年度では原子核の熱振動による効果を主に研究した。EELSでの高速電子に働くその効果は、角度分解XPSで見られる熱振動因子と同じであった。一方、内殻から放出される2次電子に働くその効果は、EXAFSでの熱振動因子と同じであった。ともにcumulant展開を先ず使って、指数の肩の上に熱振動によるcumulantを乗せる。次に、それぞれのcumulantはそれ以下の次数のmomentを用いて表わされるが、そのmomentを、3次、4次の非調和項をperturbationとして、温度Green関数によって計算した。この方法によって2、3、4次のcumulantを、完全結晶に対しては閉じた形で表わすことができた。またそれらのcumulantの実空間表示を求め、ひろく用いられている古典的な分布関数を用いるやり方の応用の限界、すなわちどのような条件の下で古典的な分布関数を用いる事ができるのかを検討した。その結果、高温でかつ中心力場近似が成り立つ時においては、EXAFSに及ぼす原子核の熱振動の影響は古典的分布関数によって記述される事がわかった。次に、1次元結晶を例にとって、実際に2、3、4次のcumulantを数値計算して、それらの温度依存性を検討した。回折実験の熱振動因子(Dybye-Waller Factor)の場合と異なって、EXAFSの場合は、原子の相対的な変位が効いてくるので、このような低次元系でも発散しない。2原子鎖では、acoustic,optical phononが存在し、それらの寄与を比較検討することは興味深いが、最近接体では相対運動が大きいopticalからの寄与が支配的であるが、高温での寄与はほぼ等しくなる。
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