研究概要 |
コンピューターの発達と共に非平衡開放系の非線形ダイナミックスの様々な性質が明らかにされ,ポアンカレー以来の運動形態の転移(分岐現象)に対する力学系理論の発展および最近の非線形系におけるカオスの物理的実験の登場と相まって,非平衡開放系の運動論を力学系の立場からつくる気運が熟してきた。カオスの際立った性質(挙動と応答)は,(A)時間及び空間のスケールについて,諸種のスケーリング則を示すことと,(B)order in chaosと言われるように,著しい時間相関・コヒーレンスを示すことである。本研究では,これらの性質に着目して,非平衡開放系における諸々の物理量の混合・輸送およびエネルギー散逸の挙動を統計物理的に解明することを目指して次の物理的体系に現れるカオスについて研究を行なった。即ち,1.非線形常微分方程式系で見られるカオス運動について,消費されるエネルギーの揺らぎの解析を行い,カオス領域では規則運動の領域に較べてエネルギーの消費率が減少することを発見した。2.ハミルトン系のカオスでの運動量の拡散現象を,2次元標準写像を用いて解析した。異常拡散現象が加速モードの発生に伴って起こること定量的に解明した。3.周期的に振動する層流による流体の混合・拡散(Lagrangian乱流)現象を,モデル化されたレーリー・ベナール対流系の流線関数を用いて研究し,異常拡散の機構を理論的に解明した。4.カオスの奇妙なアトラクター上の確率測度の特異点のスペクトルが時間的空間的粗視化のスケールとともに変化すること即ちクロスオーバー現象を発見した。5.地球大気の流れの時間的空間的変動の揺らぎについてそのフラクタル次元を求めた。また,それらが時間スケールに関して階層構造を持つことを発見した。6.二次元非粘性流体における異常拡散現象と渦粘性係数の異常について統計物理学的理論を構築することに成功した。
|