研究概要 |
本研究の発想はメルボルン大学のC.J.Thompson教授との共同研究において,高温酸化物超伝導の統一的統計力学理論を展開していた途上で得られたものである。その時には一般化したハバード模型に基づいて超伝導転移を引起こしうる電子間の有効相互作用を抽出する目的で系の一部分をなすクラスター中の自由度の一部を平均消去することを試み一応の成功を収めた。当初はこの自由度の消去(Decimation)は近似的にしか実行できないものと考えていたが,その後の詳しい研究で系によっては厳密に計算が実行できることを見出し“Quantum Cluster Decimation〔QCD〕"法として一般的な形に定式化することを意図したのがこの研究計画である. 最初の年度において一般的定式化をはじめに取上げた強相関電子の系について遂行し,詳細な計算と多彩なグラフィックス技術で方法の有効性を明らかにすることができた。しかしこの計画の最大の弱点である系の一部分だけを扱うために生ずる方法論としての欠陥は、クラスター近似を基礎にしたある種の自己無撞着法を取り込むことによって救うことができる。この見地からクラスター・ベーテ法と呼ばれる統計物理学の近似法と組合わせることを考え特に古典統計ではベーテ近似が厳密解を与える1次元系について“QCD"法との関連を明らかにしつゝ量子系への拡張を調べた。最終結果は数値計算が未終了のため得られていないが,既にいくつかの応用が考えられていてその成果に興味が持たれている。さらにこの方法がもっとも有効に適用される重要な例として水素結合型強誘電体の相転移と,液体金属の〓界現象があり,現在その研究が成功裏に進行中である。前者では水素結合中のプロトンの自由度が,また後者では“自由電子"の自由度が消去されることによりもたらされる有効相互作用のはたらきが相転移の様相をどう変えるかに興味が抱かれている。
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