研究概要 |
前年度,高周波電場による回転系断熱消磁(ADRF)の実現の可能性を調ベたところ,大きな非可逆性を観測した。実験は,Al_2O_3中^<27>A1核スピン系の二量子遷移(△m=±2)準位間において,室温で周波数スイープの方法で行った。高周波電場は,時間依存電気四重極子相互作用を誘起する。今年度,高周波磁場による同様の実験と,プロボトロフ理論に基づくスピン熱力学的考察により,以下に示すように,この非可逆性の原因を解明し,高周波電場によっても原理的にADRFが実現されることを実証した。 このスピン系の二量子遷移準位間では,二量子共鳴高周波磁場でも大きな非可逆性が観測され,高周波電場の場合と本質的に同一実験条件を満たせば,その大きさは同じである。更に,一量子遷移準位間での高周波磁場によるADRFは,一層その可逆性が悪い。一方,同じ一量子遷移準位間でも,CaF_2中の^<19>Fスピン系等が作る二準位系では,従来から知られているような高い可逆性を示す。これらの結果より,この非可逆性は,電場励起特有の現象ではなく,^<27>A1スピンの作る多準位系の特性によるものであることがいえる。この非可逆性は,高周波電場(磁場)の周波数が共鳴線の裾に達したときに,ゼーマン系とダイポール系の間に,大きな温度差のもとで起こる熱混合に起因するもので,いかなるスピン系でもありうるものである。ただ,その程度は局所磁場によるラーマー周波数と自由誘導減衰時間の積に大きく依存する。多準位系で大きな非可逆性が観測されるのはこの積が大きいからである。高周波電場の場合も,この熱混合により両系の温度差が充分小さくなった後は,ADRFは高い可逆性でもって進行する。
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