沈み込み帯はその弾性体としての構造が地球の他の部分に比べて強い不均質性を示すことが注目されている。本研究では、ランダムな不均質構造の中を伝播するにしたがって崩れていく地震波形のエンベロープに着目し、その数理的モデルづくりと、東北・関東・東海での地震波形解析を行った。成果を以下に列挙する。 (1)地震波形エンベロープ解析:波形エンベロープを強くコントロールしている減衰と不均質構造に起因する散乱の強さをマルカート法によって定量的に求める方法を開発し、関東地方での解析を行った。さらに、関東東海地域で観測された深い地震の波形エンベロープの広がり方が火山フロントの西では東側に比べて大きいことから、西側では不均質構造の短波長成分が東側に比べて大きいことを明らかにした。(2)減衰の周波数依存性の測定:観測点直下の地盤のS波の減衰特性を、観測井孔底に設置した地震計の記録から推定する方法を提唱し、泥岩層のS波減衰特性を求めた。又、これまでS波減衰の測定のみに用いられてきたコーダ規格化法を拡張し、関東・東北でS波のみならずP波の減衰特性をも求めることに成功した。(3)散乱減衰と内部減衰の比の測定:等方散乱を仮定して多重散乱の効果を数値シュミレーションし、これを基にした全波形解析から全減衰に対する散乱減衰と内部減衰の割合を定量的に評価する方法を提案した。関東東海地域での解析では、S波の散乱減衰の寄与は1〜8Hzで33〜45%であった。(4)数理的モデル研究:等方多重散乱の場合のエネルギー密度の時空分布について解析解を導出する事に成功した。さらに、P-S変換散乱がある場合について、多重等方散乱過程の定式化を行った。(5)観測研究:高周波数での微小地震観測を東北地方を横切る3ヶ所で開始した。地震波線の通過する領域の違いによりエンベロープ形状が異なることを明らかにした。
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