本研究の目的は、長周期表面波の解析から上部マントルの3次元構造(地震波及び減衰特性の3次元的な分布)を推定することである。解析手法としては我々が開発したDirect Solution Methodにより逐次波形インバ-ジョン法を用い、世界各国が展開しているグロ-バル地震観測網の記録を解析する。Direct Solution Methodは水平方向不均質初期モデルに対して、波形インバ-ジョンに必要な理論波形とその偏微分係数を高精度に、かつ効率よく計算できる手法である。本年度の計画では、S波速度構造の3次元構造を求め、さらに求めた3次元地球モデルでモ-メントテンソルを再決定する予定であった。 本年度において我々は上記の計画を達成し、さらに減衰特性の長波長不均質構造の推定(来年度の計画に含まれていた)を行なった。得られた結果を以下にまとめる。(1)上部マントル浅部は地表との相関があり、深部にはスラブに起因すると考えられる短波長の高速度域が認められる。(2)我々の求めたモデルと従来のモデルを比較した結果、深部の短波長構造が特に異なる。(3)モ-メントテンソルと速度構造のtrade offは小さい。(4)減衰係数の次数2のパタ-ンはジオイドの次数2のパタ-ンと相関がよい。(5)今回のインバ-ジョンで得られた奇数次の構造の解像度は低い。今後R1、R2の記録を増やすことにより改善する必要がある。上記の成果は、Geophysical journal誌に投稿する予定である。 今後は、さらにデ-タセットを増やして短波長の不均質構造まで求めることが課題となる。また、他の地球物理学的なデ-タ(ジオイド、実体波の走時など)と照らし合わせて総合的なモデルの評価を行なう必要がある。
|