上部マントル・下部地殻の構成岩石中に記録された応力の指標には、転位構造やその密度、粒径分布・配向性などがあるが、これらの指標から具体的な変形過程を特定していく一つの過程として、本研究では、顕微鏡下でその場観察が出来る微小試料の簡易ー軸圧縮装置を作製し、微小硬度計による人工的な欠陥や転位構造・亜粒界の測定や鏡微ラマン法による残留応力の推定を行った。とくにラマンスペクトルの波長シフトと応力の関係を解明すれば、定量的に応力履歴を推定でき転位密度とは独立な観測量となる。 その結果、オリビンや変成岩体中の石英に対して、微小硬度計による人工的な圧痕の帆囲の応力分布から推定された応力とラマンシフト量との関係を半定量的ではあるが特定できる見通しが得られた。また、本研究で開発した方法では、応力下で獲得された種々の変形組織について、応力解放下でのアニ-リングの効果を同一試料の同一部分に対して観察でき、応力履歴の指標として十分有効であるという見通しを得た。 現在までに、様々な応力下で形成された天然の岩石試料として、変成岩体中の石英やダイアピ-ル上昇してきたカンラン岩体中のオリビンに着目して、微小硬度計により形成された欠陥(や割れ目)のアニ-ル効果やラマンシフトを測定してきた。そして、これまでの研究では難しかった厚さの十分でない試料についても、最高温度の制約や一定歪の条件は十分ではないが、応力履歴の痕跡を簡便かつ明瞭に見いだせることが分かった。また、マントル中の応力を記録していると考えられるオリビン内の微小な割れ目に存在する流体包有物の挙動を観察したり、それらの結晶軸に対して相対的な特長ある転位構造の変化が識別可能となった。
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