研究概要 |
地下水涵養に伴う熱と物質の輸送機構を解明するため、主として、千葉大学理学部の地中水観測場を中心として研究を進めてきた。関東ロ-ム層のような粘質土中を移動する地中水の速度は、年間1〜2mと非常に遅い現象であるため、さらに2,3年後にならなければ最終的な成果を提示することはできないが、現在まで得られた成果についてのみ述べる。特に陰イオンに着目して、その移動速度を検出するため土壌水の採水を行なった。その結果、硫酸イオン濃度のピ-クは、28日間に深度60cmから250cmに移動し、平均的な降下速度は6.8cm/dayとなった。これに対して、硫酸イオンの濃度ピ-クは、730日間に深度100cmから175cmに移動しただけで、その平均降下速度は0.1cm/dayであった(佐伯,1992)。このように、陰イオンの種類によってその移動速度は極度に異なることが明らかになった。すでにカラム実験でも、この事実は確認している。すなわち移動速度からみると、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオンの順に移動しやすく、土壌中に吸着されにくいことを示している。カラム実験では媒質は、砂とガラスビ-ズであった。このような吸着性の少ない媒質でも、移動や吸着性に差が生じる。媒質が関東ロ-ムのような粘質土になるとその効果はさらに著しくなり、観測圃場で観測されたように、硝酸イオンの移動速度は、硫酸イオンのそれの数10倍にもなることが確認された。野外での現象には、地中水の下方への降下浸透のみでなく、蒸発による水の移動なども複雑にからみ合っていることが示唆された。 その他熱輸送については、米沢盆地において、年間4回、10本の地下水観測井の地温プロファイルを測定し、広域地下水流動系の存在を確認するとともに米沢市で冬季消雲用の揚水により、低温な河川水が強制涵養される様子が明らかになった。
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