研究概要 |
南極のオゾンホールの推移について、TOMS衛星観測データとNMCの風の資料の解析を通して以下の知見を得た。 (1)南極オゾンホールが発達する、春から冬(7-10月)にかけて下部と中部成層圏の気温の変化に逆位相があり、下部の気温が低下するときはオゾンホールが深まることを見出した。この要因を研究した結果、力学的変動と密接な関連があることがわかった。すなわち、オゾン減少による極測の気温が低下し、温度風の関係から西風ジェットが強まり、プラネタリー波の極向き伝播が妨げられる。この結果、極域では気温低下とオゾンの南北交換が弱くなり、オゾンホールの発達条件が生れる。80年代のデータ解析によりこの事実を実証した(Kawahira and Hirooka,1993投稿準備中)。このことは、長期的に見て、なぜ1980年頃にオゾンホールが生じたかに答えが得られたと考える。すなわち、70年代までに畜積された温室効果気体の増加による成層圏の冷却が、南極の成層圏循環を変えてきた結果であるという、申請者の見解を支持する。 (2)TOMS衛星観測データがCD-ROM2枚に10年間以上の全球オゾン量が納められ、その詳細な解析がパソコンで容易に行えるようになった。焦点はここ4年間の南極オゾンホールが最低値を更新または持続している異常に当てた。60°Sより極側の9月、オゾンホールが発達する期間、のオゾン量の各緯度の標準偏差の年々変化を調べた。この標準偏差は各緯度円に沿うオゾン分布の不均一さを示し、波動の影響の指標ともいえる。この偏差の年々変化はオゾンホールの発達と逆相関で、波が発達するほどオゾン減少は弱くなることが示された。しかし、90及び91年はこの相関が崩れていた。この様相を詳しく解析すると、89年以前とまったく異なり、東進する成分が無くなり、定常成分の波数 1が異常に増大していることを見出した。89年から90年というわずか1年間に起きたことになっている。原因は不明だが、今後にオゾンホールの推移にとり重要な変化と考えている。このような突然の変化も力学効果または循環によることが明らかである。この内容はJGRに投稿済みである。 本研究で得たオゾンホールの展開のシナリオは以下の通りである。20-30年間の長期間では、温室効果気体増加によって極域の気温が低下しある値になり、循環が変化して両者の効果がオゾンホールを産み出す状況を作り、以後オゾンホールが発達し更に気温や循環を変え、その進行が進んだ段階で、次の新たな状況が生じている。すなわち、温室効果の暴走の一つの現れが現在のオゾンホールの一方的進行である。
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