1.これまでに星間空間で見つかった3種類の環状分子(C_3H_2、C_3H、C_2Si)は、いずれも2π電子系である。地球の自然界で反芳香族環状共役系が存在しないことから、星間空間でも反芳香族的な分子が見つかる可能性は非常に小さい。星間化学の基本分子であるH_3^+も環行2電子系で、芳香族分子と見なすことができる。このように、宇宙の環状分子はすべて正のトポロジ-的共鳴エネルギ-(TRE)を持つと考えられる。1990年にH.F.Schaeferらは新たな環状分子シクロペンタジエニリデン(C_5H_4)を星間分子の候補として提案したが、この分子は環状5π電子系で負のTREをもつ。したがって、この分子が宇宙に存在する可能性は極めて小さい。シクロペンタジエニリデンが反芳香族分子であることは、その2量体であるフルバレンが典型的な反芳香族化合物であることから、グラフ理論的に証明できる。 2.強い紫外線に照射された星雲では、大きくてコンパクトなベンゼン系縮合多環芳香族炭化水素(PAH)が放っていると思われる赤外線が観測される。これと関連して、大きなPAHであるヘキサベンゾコロネン、ケクレン、サ-カムアントラセンは高エネルギ-(70eV)の電子衝撃に対して極めて安定である。その理由として、これらの分子が基底状態でのみならず、励起状態や、1価、2価、3価の陽イオンの状態でも、大きなTREを持つことが上げられる。また、これらの分子が多数の振動モ-ドをもつことも、星雲における分子の安定性に大きく寄与していると考えられる。 3.大きくてコンパクトなPAHの光分解様式として脱水素が考えられるが、PM3分子軌道法によるコロネンなどの計算結果から、隣合った2個の水素が脱離しやすいことが分かった。
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