研究概要 |
分子内に双極子能率の大きい極性基を有する両親媒性物質と長鎖脂肪酸などを交互に累積して得られるヘテロLB膜(ラングミュア-・ブロジェッ膜)は双極子が一方向を向いた非対称構造をとり、自然界には存在しない形の高次組織体を形成し、焦電素子や圧電素子などの機能性材料として利用できる可能性を有する。特に温度を瞬間的に変えたときに流れる熱刺激電流は、これを高感度赤外線検知器(センサ-)として利用できることから注目を浴びている。この熱刺激電流と総称される誘導電流を与える原因は一つではなく、双極子が熱的擾乱をうけて生ずる焦電流や、炭化水素鎖が無秩序に乱れる際に生ずる電流などがある。後者の電流はその詳細な機構が未だに不明であるが、前者の焦電流に比べると桁違いに大きく、実用的には寧ろこれを利用したほうが、はるかに有利であると考えられる。本年度はまず,その基礎的デ-タ-である脂肪酸およびその金属塩のLB膜の炭化水素鎖が乱れる温度(相転移温度)を補助金で購入したラウダ社製循環恒温水層とFTーIR反射吸収測光を用いて行った。脂肪酸としてはステアリン酸を,金属としてはCdとCaを選び,まずLB膜の層数を1〜21層と変化させたときに相転移温度がどう変わるかを検討したところ,Cd塩では1層膜の102℃を除き,ほぼ108℃と一定であるのに対して,ステアリン酸およびそのCa塩では,層数の増加と共に,それぞれ58〜67 ℃あるいは102〜129℃と変化することが明らかとなった。また,転移温度以上での分子鎖の乱れの程度は,層数が多いほど大きかった。さらに,CdおよびCa塩の9層LB膜において,第1,5,および9層目を同位体置換して調べたところ,単分子膜の層位置を変えても,転移温度は変わらないことも明らかとなった。次年度以降は,脂肪酸の種類を変えて測定を継続すると共に,熱刺激電流との関連についても調べる予定である。
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