分子内に双極子能率の大きい極性基を有する両親媒性物質と長鎖脂肪酸などを交互累積して得られるへテロLB膜(ラングミュアー・ブロジェット膜)は双極子が一方向を向いた非対称構造をとり、自然界には存在しない形の高次組織体を形成し、焦電素子や圧電素子などの機能性材料として利用できる可能性を有する。特に温度を瞬間的に変えたときに流れる熱刺激電流は、これを高感度赤外線検知器(センサー)として利用できることから注目を浴びている。この熱刺激電流と総称される誘導電流を与える原因は一つではなく、双極子が熱的擾乱を受けたときに生じる焦電流や、炭化水素鎖が無秩序に乱れる際に生じる電流などがある。 後者の電流は前者の焦電流に比べて桁違いに大きく、実用的にはむしろこれを利用したほうが有利であると考えられた。3年間に渉り、フェニルピラジン長鎖誘導体と直鎖脂肪酸の交互ヘテロLB膜の分子鎖が乱れる際に流れる熱刺激電流について、詳しく検討したが、同一物質から作成した試料でも、調整の度ごとに、検出される電流の符号が、正になったり、負になったりすることが明らかとなった。これは試料調整の際、過剰な電荷が取り込まれ、その符号が正であったり、負であったりするものと思われる。したがって、これを利用するには電流の絶対値を使う必要があることが分かった。一方、低温における焦電流を昇温・降温の繰り返し測定により詳細に検討した結果、-60℃付近の低温では焦電係数が常に正であるが、-20〜0℃からは、負の焦電係数をもつことが明らかとなった。また、カチオン性の水溶性ポリマーとのポリイオンコンプレックスLB膜においては、フェニルピラジン環の運動の自由度が増す分だけ焦電係数が増えるが、平均分子配向の低下のため、減る効果もあって、トータルとしては余り増大が見られないという結果を得ている。
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