研究概要 |
BaF_2結晶と光電子増倍管を組み合わせてファスト・ファストコインシデンスシステムを作成し,時間分解能211psを得た。 ^<22>Naが ^+β崩壊して生じる ^<22>Ne^*が放射する1.28MeVのγ線を一方のBaF_2で受光し,これと垂直方向に配置したBaF_2で,陽電子が固体中の電子と対形成後放射する511keVのγ線を検出し,両シグナルの時間差から寿命スペクトルを求めた。ヘキサメチルベンゼン単結晶では125,344,953および2.7×10^3psの寿命成分が見出された。511keVのγ線の検出器と180度の方向にGe検出器を配置してこの方向に検射される511keVのγ線を同時計測して陽電子ー電子対消滅エネルギ-スペクトルを測定した。この時,時間差波高変換器の出力を利用して,ヘキサメチルベンゼン単結晶の場合には380ps以下の寿命成のをもつシグナルのみの消滅スペクトルを分離したところ,そのSーパラメ-タ-は0.563で,全消滅スペクトルのSーパラメ-タ-0.543より大きいこと,すなわち,前春にはpーポジトロニウムによる成分の割合が高いことがわかった。消滅スペクトルのSーパラメ-タ-はγ線の測定方向が,層面に平行な方が垂直な場合より大きく,しかもこれらのSーパラメ-タ-はいずれも高配向熱分解黒鉛(HOPG)の対応する方向での値より大きいことがわかった。ヘキサクロロベンゼン単結晶でも同様の結果が得られた。このことはこれらの芳香族有機結晶中のπー電子の運動量分布がHOPGのそれより狭いことを示している。単結晶に磁場を加えたところ,スペクトルの中央部の強度が増大し,半値幅が狭くなること,しかも磁場誘起によるスペクトルの半値幅は,層面に平行方向の方が狭い。以上の結果は有機結晶中にポジトロニウムが形成され,それが有機分子の層に平行方向により自由に運動していることを示している。このような非局在ポジトロニウムは層状構造をもつ物質においてのみ初めて観測可能であったものと考える。
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