フリ-ラジカル反応において、ラジカルの持つ共鳴エネルギ-はラジカル反応の連度に影響を与える。例えばラジカル(R・)とO_2との反応においては、一般にラジカルのイオン化電圧(IP)が低いラジカル程反応速度が大きいという傾向がある。しかし、ラジカルに共鳴があるときにはこの例にあてはまらない。例えば、共鳴のないビニルラジカル(C_2H_3)とO_2、共鳴のあるアリルラジカル(C_3H_5)とO_2の反応においては、イオン化電圧はアリルラジカルの方が低いにもかかわらず、反応連度はビニルラジカルの方がずっと速いことが知られている。R・+O_2の反応は三体反応である。いまラジカル(R)に共鳴があるとすると、反応の入口のエネルギ-は共鳴エネルギ-の分だけ低くなる。他方反応生成物であるRO_2ラジカルには共鳴がないから、RO_2ラジカルのポテンシアルの深さはラジカル(R)が持っている共鳴エネルギ-の分だけ浅くなる。このポテンシアルの浅さがR+O_2の反応速度を遅くしていると考えられる。本研究では希ガスの共鳴線をイオン化光源とした光イオン化質量分析法により、ラジカルと酸素分子の反応速度の測定を行い、共鳴のあるラジカルが反応速度にどのような効果を与えるのかを調べた。まず、光イオン化質量分析法においては、希ガスの共鳴線の強度を高めるために放電の位置を窓の近傍に近ずけ、従来の感度の50ー100倍の高感度を得ることに成功した。この感度においては、ラジカル(R・)だけでなく、生成物であるRO_2ラジカルも十分なS/Nで検出できることが証明された。例えばメチルラジカル(CH_3)とO_2の反応で生成するメチルペルオキシラジカル(CH_3O_2)を検出できた。アリルラジカルとO_2の反応速度も圧力1〜100Torrの範囲で測定した。ヒドロオキシシクロヘキセニルラジカルやシクロヘキサジェニルラジカルについてはシグナルの検出に成功した。また共鳴エネルギ-の計算も行った。
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