分子クラスターの中で誘起される化学反応は、溶液など凝集相における反応のミクロなモデルとしての視点から注目されている。凝集相における反応は多くの素反応の集合であるのに対し、分子クラスター内反応は、単一または少数の素反応が実現できる系であるので、両者の類似性、特異性を解明することは、全反応過程の理解を深めることに寄与する。 多原子分子、特に、有機化合物を核とする分子クラスターは、多様な構造、たとえば配向の差異による多数の幾何異性体(配向異性体)が存在しうる。配向構造が異なることによって、全く別の反応が誘起されるなどのクラスター内反応にも多様性を生じるので、反応の初期構造依存性を研究することは全反応の理解において必要なことである。 本研究では、有機分子を核とする比較的小さなサイズの分子クラスターの中で誘起される化学反応がいかに配向構造によって変化するかを調べる。特に、中性クラスターでは反応しないが光イオン化に伴って効率良く反応する場合、すなわち、分子クラスター内イオン、分子反応に関して詳しく実験的研究を行う。その結果を通して溶液系における類似反応の機構や溶媒効果を考察するための基礎的モデルとして、構造と反応性の関係を明らかにする。 具体的対象として、フルオロベンゼン.アンモニア錯体のイオン化による求核置換反応の生成過程を研究した。 また、本研究から発展した、イオントラップ分光法を開発して、分子クラスターイオンの電子状態の研究を行った。
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