オキシエチレン系非イオン界面活性剤と水との系の諸物性には、親水基であるオキシエチレン鎖の性質が重要な役割を果たしている。特にそのコンホメーション拳動は、この系の構造を理解するうえで重要な要因の一つである。そこで本年度は、水溶液中における非環状および環状オキシエチレン鎖のコンホメーション拳動を詳細に検討した。赤外分光法を用い詳細な基準振動計算と組み合わせることにより、オキシエチレン鎖の水和とコンホメーション状態を環状および非環状のオキシエチレンモデル化合物(α-メチル-ω-メトキシヘキサキスオキシエチレンおよび18-クラウン-6)について広範な濃度領域にわたって調べた。OC-COグループのコンホメーションを水和構造の変化に基づいて考察すると、ニート状態から水の分率が増えるにしたがってオキシエチレンユニットのエーテル酸素原子間と水分子とのブリッジ状の水素結合によりゴーシュコンホメーションが安定化される。ゴーシュOC-COグループの酸素原子間距離は約0.28nmであり、水分子1個で安定なブリッジ状の水素結合を形成するには狭すぎるが、プロトン-ローンペア静電相互作用によってゴーシュ構造を安定化させるには十分であろう。また、オキシエチレン2ユニットOC-C-O-C-CO構造を考慮すると、GTTG'やGGG'G'のコンホメーションの場合などでも水分子1個で両端のエーテル酸素原子間にブリッジ状の水素結合が可能であり、やはりOC-CO結合のゴーシュコンホメーションを安定化させる。 さらに本年度は、典型的なアルキルオキシエチレン系非イオン界面活性剤であるC_<16>E_3について多形相拳動をラマン分光法により調ベ、相変化に伴う結晶性およびコンホメーションの変化を明らかにした。これらの多形現象は、非イオン界面活性剤が水溶液中で形成する多様な中間相の構造と密接に関連するものである。
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