研究概要 |
制癌剤シスプラチンの制癌効果の低下に抑えながら,かつ,毒性を極力低下させうる可能性を探るために,ポリマ-ないしオリゴマ-の白金錯体の系統的な合成化学的研究を行い,錯体の構造並びに化学的性質を明らかにし,薬理作用の初期的検討を行うことを本年度の主眼した.平成3年度において以下の研究結果を得た.1)トリエチレンテトラミン(N4アミン)及びペンタエチレンヘキサミン(N6アミン)のホルムアルデビド保護体とアジピン酸ジクロリドとから直鎖状のポリアミドの合成に成功した.2)上記ポリアミドから保護基を脱離して連続したーCH_2CH_2ーNHーシ-ケンをもつ水溶性ポリアミドが調製できた.これは水中で高分子電解質的挙動を示した.3)上記2)で得たポリアミドとK_2PtCl_4との反応は冷水溶液中で進行し,cisーPtcl_2単位を含むポリアミド錯体を得ることに成功した.この白金錯体は塩酸塩の形であった.4)上記3)で得たポリアミド塩酸塩の白金錯体は水溶性であったので,このまま水溶液として次の条件で毒性及び薬理活性試験を行った.即ち,マウスを使用し,大腸癌を発生させた後に上記水溶液を静脈注射し,生存日数及び癌細胞の発達の程度とをブランクと比較した.その結果,本ポリアミド塩酸塩の白金錯体の毒性は見られなかった。制癌効果は末だかなり弱いものであったが,生存効果はdose量に鋭敏であると思われる兆候が観察された.少なくとも,毒性の低いcisープラチン型の錯体が見出されたことから,関連した化学構成をもつポリマ-またはオリゴマ-について幅広く研究を進めることの必要性が明らかになった.5)上記1)の反応により三元共重合型のポリアミドが合成でき,これらも水溶性cis型白金錯体を与えることが分った.6)ジエポキシドとの重付加反応により,親水性のポリエ-テルポリアミンを得る方法を開発できた.
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