研究概要 |
有機リチウム試剤,有機マグウシウム試剤の代表例としてnーBuLi,nーBuMyBrを取り上げ,これらの試剤とベンゾフェノンとの反応について,反応性や生成物の選択性(付加体vs還元体)に及ぼす置換基の効果を調べた。その結果,これらの反応においてはリチウム試剤とグリニャ-ル試剤の反応機構の違いが顕著に現れることがわかった。すなわち,(1)反応性に及ぼすベンゾフェノン上の置換基の効果はnーBuLiとの反応では非常に小さい(HamueltのP値,1.28)が,nーBuMgBrの場合はかなり大きい(P=1.45)。(2)付加生成物を還元生成物の割合はnーBuriでは置換基によらずほぼ一定(7:3)であるが,nーBuMgBrの場合には置換基の電子効果によって6:4から1:9gで大きく変化する。(3)ベンゾフェノンのオルト位に置換基を導入すると,nーBuMgBrの場合は還元体の生成比が劇的に増大すること(>95%)が,nーBuLiの反応ではまったく影響を受けない。以上の結果から,一見類似の反応剤であるリチウム試剤とグリニセ-ル試剤ではその反応の機構に決定的な違いのあることがわかった。これまでの結果を総合すると,グリニャ-ル試剤の反応は試剤からカルボニル化合物への速い電子移動とそれに続く遅い(律速の)炭素一炭素結合生成によって進行するが,リチウム試剤の場合は電子移動段階が律速であると結論ができた。一方,カルボニル化合物への求核試剤の付加反応が一電子移動を伴っているか否かを判定する新しい方法として,オルトハロベンゾフェノンの脱ハロゲン化反応(ケチルラジカルプロ-ブ)を開発した。これは,電子移動によって生じたオルトハロベンゾフェノンのラジカルアニオンが容易に脱ハロゲン化生成物を与えることを利用するものである。この手法の有効性を今回グリニャ-ル反応について確認できたので,今後電子移動の可能性のある反応系について応用していく予定である。
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