研究概要 |
励起状態における分子間相互作用によって生成する励起錯体の化学的特性を明らかにし,新しい高選択的な光化学反応を開発することを目的として研究を進め,以下のような成果を得た。 1.電子受容性光増感剤を用いる分子間および分子内光極性付加反応:(1)9,10ージシアノアントラセン(DCA)を光増感剤とする芳香族アルケンヘのアルコ-ルの分子間光極性付加反応では,芳香族アルケンの構造によって著しく異なった溶媒効果を受けることを見い出した。(2)DCAを光増感剤とする分子内にOH基をもつ芳香族アルケンの分子内光極性付加反応では,5〜7員環のエ-テルが効率よく生成することを見い出した。(3)これらの光化学反応では,DCAと芳香族アルケンとの間に生成する励起錯体または光誘起電子移動によって生成するラジカルイオン種が反応活性種になることを明らかにした。また,これら活性種の反応特性を支配する因子について多くの新知見を得た。 2.芳香環へのアルケンの立体選択的光環化付加反応:(1)9ーシアノフェナントレンやピレンとけい皮酸メチルとを含むベンゼン溶液に光照射すると,立体特異的に(2π+2π)光環化付加体が生成することを見い出した。この光環化付加反応では,けい皮酸メチルのフェニル基の高いエンド選択性が認められた。(2)メフチルメチルトリメチルシランとアクリロニトリルとを含むベンゼン溶液に光照射すると,シアの基がエンド側に付加した(2π+2π)光環化付加体が生体することを見い出した。(3)キラルな置換基をもった芳香族化合物とキラルな置換基をもつた芳香族アルケンとの(2π+2π)光環化付加反応では,ジアステレオ選択的に進行し,一方のジアステレオマ-が選択的に生成することを見い出した。(4)これらの光環化付加反応はいずれも励起錯体を経由して進行することを明らかにした。
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