研究概要 |
1。前年度、コチレノール型立体化学を有する三環性テルペン,フシコカ-2,5-ジエン(1)の合成を達成した。1は天然物として単離されてはいないが、苔類の代謝産物には1を前駆体とする化合物が幾つか知られている。プラギオスピロリドA,B(2,3)は、1とセスキテルペンラクトン、ディプロフィロリドA(4)、及びディプロフィリン、(5)のDiels-Alder反応によって生合成されると考えられるが、実際全合成した4,5と1との反応によって2,3の立体選択的全合成を達成した。2,3の絶対構造を確定するとともに、生体内Diels-Alder反応の関与を証明できた。 2。この種の三環性テルペノイドを前駆体とするテルペノイド配糖体としてソルダリンが知られている。前年度はその基本骨格を合成したが、本年度はそのアグリコン部であるソルダリシン(6)の全合成を達成した。筆者は先に6の生合成として、同一起源のヒドロキシシクロアラネオセンの中央の8員環の酸化開裂を経て生じるシクロペンタジエン部と不飽和アルデヒド部のDiels-Alder反応による経路を提唱したが、その全合成をその生合成仮説に従って行うことができた。 3。コチレノール(7)の全合成上問題となるのは、8,9位のグリコール部の立体化学であった。前年度はそれをジアルデヒドの低原子価チタンによる還元環化により一挙に達成すべく検討したが目的達成に至らなかった。そこで本年度は、8員環形成に分子内エン反応を適用し、その後の官能基変換によりこのグリコール部を段階的に形成することを試みた。その結果、未だ選択性に問題はあるものの、7の立体化学の構築に成功した。また、7の安定性に深く関係している3位水酸基のチオールへの変換法を確立できた。7の類縁体合成への道を拓く成果と考える。
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