原子吸光分析法による固体試料の直接定量において最も重要な問題の一つは、正確度に信頼のおける験量線の作成方法の確立に関する問題であった。 原子吸光分析法による固体試料の直接定量に最も適した試料は生物試料と云える。原子吸光分析法による生物試料中の微量元素の定量において、生物試量を溶解して溶液試料として測定に供する場合には、試料溶解に時間を要するほか、通常分離・濃縮操作を必要とする為非常に煩雑である。しかし原子吸光直接定量法ではマトリックスは灰化段階で分解・揮散し、試料の溶解稀釈を必要としない為高感度分析が可能である。 しかし固体試料の直接定量において、我々は検量線の作成方法として第一に水溶液標準試料を用いたが、これは鉛、亜鉛など沸点の低い元素には有効であったが、クロム、銅、ニッケルなどの元素の直接定量では良好な結果を得られなかった。また、マグネシウムーオキシン共沈合成標準試料で検量線を作成する方法も提案したが、コバルト、ニッケル、銅、マンガンなどマグネシウムーオキシンと100%共沈する元素の定量は可能となったがクロムなどでは良好な結果を得られなかった。 本研究では粉末生物試料の原子吸光直接定量のための検量線の新しい作成方法として固体試料のための3点評価標準添加法を確立した。 本法を用いて種々のNIES、NIST標準試料中の微量の銅、マンガン、コバルト、ニッケルなど直接定量を試みた結果、保証値と良好な一致を示した。本法を微量鉛やクロムの直接定量へ応用した結果も保証値と良好な一致を示し、正確度の点から3点評価標準添加法は最も信頼しうる検量線の作成方法であることが明かとなった。我々はいろいろの元素へ適用し、NIES、NIST標準値の決定にも役立つものとして研究成果を発表している。
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