本年度は、昨年度に引続き1989年夏に深海掘削船ジョイデスレゾリュウション号により日本海盆北部から採集されたSite795コア試料について、より詳しい変動を明かにする目的で、追加堆積物試料の中性子放射化分析を行い、主及び微量元素組成を求めた。また同追加試料中の硫黄含有量の高い試料について、単離した堆積性野イチゴ状黄鉄鉱の硫黄安定同位体比を測定した。また動物プランクトンである有孔虫や植物プランクトンであるココリスに由来する堆積物中の炭酸カルシウム量を示す無機態炭素の効率的定量の目的で昨年度に製作した堆積物無機態炭素自動分析システムのセットアップを行い、深海掘削試料及びピストンコア試料の無機態炭素の定量を行った。さらに、陸源有機物の指標であるリグニンの定量法として、堆積物をメタノールそしてジクロロメタンで抽出し溶媒可溶成分を除去後、アルカリ性CuOで分解し得られたフェノールをトリメチルシルル化してGC分析する方法を採用し、日本海堆積物への適用を検討した。日本海堆積物では、陸起源リグニン以外に多くの海起源化合物が共存し、従来の条件ではアルカリ性CuO分解物中のリグニンフェノールを他の夾雑物から分離することが困難であったため、検討の結果分別抽出と60mキャピラリーカラムを使用したGC/MS-SIMとの結合が有効であることを見いだした。この結果表層堆積物のリグニンフェノールは5〜20μg/gであった。以上の分析の結果、昨年度までに見いだした日本海の誕生以来の酸化還元環境の変遷はほぼ追認された。しかし、240万年以降の顕著な酸化還元条件の変動がよりドラスティックであり、またその変動が酸素同位体比の変動にかなり連動したものであることが明らかとなった。
|