研究概要 |
昨年度に引き続き,モノフェニルタリウムクラウンエーテル錯体の求電子反応について研究を行った.今年度はイオウおよび酸素原子を環内に含む複素5員環化合物を対象にした.この化合物に対するタリウムイオンの求電子置換反応は,60℃という温和な条件下で,ヘテロ原子のα位で起こることが明らかとなった。この反応は,ハロゲン,ミアノ基アルデヒド基といった電子求引性のグループがある場合にも容易に起こった。タリウム置換した化合物は安定で,比較的良好な収率で單離することができた。これら錯体において新たに生起したタリウム一炭素結合の結合性を^1HNMRスペクトルを用いて検討したところ,本錯体は,フェノール類あるいはピロール類などと反応して出来たタリウム一炭素結合と比較し,幾分イオン性が大きいということが明らかになった。 モノフェニルタリウムクラウンエーテル錯体が強い炭素親和性を持つことが明らかになったので,今までほとんど研究されていない,非常に安定な種々のテトラオルガノシラン,(CH_3)_3SiR(R=CH_3,C_2H_5,C_2H_3,CH_2C_6H_5,C_6H_5,Si(CH_3)_3)との反応を試みた。その結果,60℃という温和な条件下で,これらシランはタリウム錯体と反応し,選択的にメチル基のみがタリウム原子上に移るという非常に興味ある結果を得た.一般にトランスメタレーション反応においてはフェニル基あるいはベンジル基が容易に起こるのに対し,本反応ではその様なことは全く起こらず,メチル基のみが移動するという特異な反応である.この原因はタリウムイオンに配位したクラウンエーテルと新たに導入される有機基との間の立体的要因に基くものと考えている.
|