研究概要 |
昨年度の予備実験で、光学活性alpha-[Co(Me2 eddp)(en)]+(Me2 eddp=ethylenediamine-N,N'-dime-thyl-N,N'-dipropionate)光反応から光学活性なCo-C結合錯体が生成することをすでに確かめているが、今年度はこの錯体の単結晶化とX線結晶構造解析を行い分子構造の決定を試みた。出発原料のLAMBDA-alpha異性体の光反射で得られたCo-C結合錯体の構造は、昨年度吸収、CD、C-13NMRスペクトル結果から推定した通りのLAMBDA-alpha構造であった。この錯体の光脱炭酸反応は2つの面外カルボキシル基のいずれか一方で起こり、完全に立体保持で進行していることを明らかにした。さらに、今年度は、不飽和配位子(phen)を含むbeta-[Co(eddp)(phen)]+のラセミ体及び光学活性体について光反射を行った。ラセミ体の光反応からは赤色結晶(beta異性体)Sオレンジ色結晶(alpha異性体)の2種類のCo-C結合錯体を単離した。この両者は中性または弱アルカリ性水溶液中で容易に相互に異性化したが、弱酸性条件下ではほとんど異性化は示さなかった。事実、弱酸性水溶液中でラセミ体と同様に光学活性体について光照射したところ、光学活性な赤色Co-C結合錯体が得られた。光脱炭酸反応によって生成するCo-C結合錯体は、不飽和配位子の共存によって安定化すると考えられていたが、今回行った3年間の研究結果から、不飽和配位子が共存しなくても水溶液中で安定なCo-C結合錯体が得られることを明らかにした。また、四座配位のジアミノジカルボン酸錯体では、2つのカルボキシル基の一方でのみ光脱炭酸反応を起こし、Co(III)への炭素結合は面外でのみ起こること、光学活性錯体の光反応は完全に立体保持で進行することなど、新しい知見を得ることができた。
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