研究概要 |
特異的な磁性を示すカルボン酸二核ニッケル(II)錯体の合成を前年度に続き行い、〔Ni(RCOO)_2・L〕_2の組成で示される二核錯体が多数得られた。特に、L=PPh3(トリフェニルホスフィン)、R=MePh_2Cの2,2-ジフェニルプロピオン酸錯体はNiがCu,Zn,およびCoに置き変わっても高純度のものが得られることがわかった。また、これと関連するNi-Cu,Ni-Znのヘテロ金属カルボン酸二核錯体、カルボン酸二核コバルト錯体、およびその他の遷移金属多核錯体を多数合成しその磁気的性質を調べた。ニッケル錯体の磁気モーメントは室温で1.64〜2.34 BM,また77Kではほとんど反磁性になり、これは通常の常磁性ニッケル(II)錯体の磁気モーレントが3.2 BM前後であるのにくらべ,異常に低く、高スピン型ニッケル(II)二核錯体のものと比較しても異常であることがわかった。単結晶が得られた錯体についてはX線結晶解析を行い、2個のNi^<2+>イオン間に4本のカルボキシラトで架橋配位した、いわゆる"酢酸銅型"二核構造であることが判明した。構造解析に成功した6種類の錯体についての論文をActa Cfystallogr.,C48,1888-1894(1992)に発表した。磁性については、(1)ニッケルイオン間に反強磁性的スピン交換相互作用が強く働いている。(2)それぞれのニッケルイオンが低スピン(^1A_1)【double half arrows】高スピン(^3B_1)の平衡状態にある。の2通りの考え方がある。磁性と構造の相関から言えば(2)の方が矛盾が少ないわけであるが、問題点はスピン平衡錯体であるといえる決定的証拠が少なかった。この点に対する一つの解決策としてNi-CuおよびNi-Znのヘテロ二核錯体を合成し、その磁性を調べた。その結果、(2)のスピン平衡の可能性は少なく、(1)の特殊なタイプのスピン交換相互作用が存在していると思えるデータが得られた。その磁性を説明するために新しい理論式を導きだし、実験データをうまく説明することについ最近、成功した。
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