トリスエチレンジアミン錯体として、同形置換が可能な[Rh(en)_3]^<3+>および[Cr(en)_3]^<3+>錯体を選び、それぞれの錯体の0.9mol/dm^3、0.3mol/dm^3塩化物水溶液および0.25mol/dm_3塩化物に過剰の塩化リチウムを加えた水溶液についてX線回析測定を行った。得られた回析デ-タを同形置換処理し、中心金属原子回りの動径分布関数を求めた結果、いずれも2.1Å、2.9Å、4.4Å付近に明瞭なピ-クが存在することが明らかとなった。最初の二つのピ-クは、RhーNおよびRh…C原子間相互作用に帰属でき、結晶中の平均原子間距離と0.02Å以内で一致した。これは溶液中の錯体構造が結晶中と基本的に変わっていないことを意味している。A.AÅ付近を中心とするピ-クは、エチレンジアミン配位子のアミノ基近傍の第二配位圏の構造を反映していると考えられる。この領域の見かけの動径分布関数の様子は塩化物濃度によってほとんど異ならなかったが、過剰の塩化リチウムを加えるとピ-ク幅が広くなることから、このピ-ク中には水分子だけでなく会合塩化物イオンも存在しているものと推測された。また、3.8Å付近にも独立した小さなピ-クが共通して存在するが、これは錯体のC_3軸方向に最近接した水分子によるものと考えられる。動径分布関数は5Å付近を極小とし、次の分布が始まり6.0〜6.5Åで再び極大に達するが、この領域には更にその外側の水分子および配位子のメチレン基に接触して存在する水分子等が含まれると考えられる。これらの測定とは別に、塩化物水溶液に硫酸リチウムを加えた実験から、5Å付近の谷間がかなり浅くなることが観測されたことから、この溶液中の錯体の配位子のアミノ基周辺に硫酸イオンが存在することが明らかにされた。
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