金属錯体を構成単位とする分子集合体には、中心金属原子のd電子の局在性および非結合性という性質に由来する構造と電子状態の間の強い相関ー強い電子格子相互作用ーという特徴的な性質がある。特に電子格子相互作用と伝導電子がカップルした系、すなわち構造と電子状態のゆらぎが共存する系においては超伝導を含めた興味深い物性が発ブするものと期待される。ハロゲン架橋一次元金属錯体においては、架橋ハロゲンの原子位置に関係する特徴的な電子格子相互作用が見られ、架橋ハロゲンが一方の金属原子の方向に偏っている混合原子価状態と2つの金属原子の中央にある均一な原子価状態の両方の系が我々によって実現している。ハロゲン架橋一次元錯体について、伝導電子と電子格子相互作用をカップルさせ、酸化状態と構造にゆらぎのある系を実現させるには、(1)一次元鎖内の電子格子相互作用を伴う金属原子間の電荷移動が熱的に起こる系を実現させる、(2)伝導性を与える部分酸化型の一次元錯体を実現させる必要があると思われる。本研究においては、(1)の価数揺動型の一次元錯体を実現させるため、均一な原子価状態にあるハロゲン架橋一次元ニッケル錯体について架橋ハロゲン原子と外圏ハロゲンイオンの組み合わせを変えることにより、一次元鎖内の金属原子間距離の制御を試みた。塩素架橋一次元ニッケル錯体について外圏イオンとして塩素イオンに対して臭素イオンを混ぜることに成功した。この結果、ニッケル原子間距離を0.020(1)A長く光学的なギャップを低エネルギ-側にシフトすることができたが、熱的な価数揺動の実現はまだ成功していない。また、バンド幅が広く部分酸化型一次元錯体への可能性が高いヨウ素架橋一次元ニッケル錯体の合成を試みている。ヨウ素は、塩素や臭素とは異なる十分な酸化電位をもたないため、科研費により購入した電気化学装置を利用して電気化学的および光化学的な合成を検討中である。
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