ショウジョウバエゲノムの17%が中程度反復配列DNAで構成されており、その3/4が可動遺伝因子、いわゆるトランスポゾンであるとされている。トランスポゾンは自然突然変異の主要な原因であり、適応進化や種分化に果たす役割についても関心をもたれている。また重複遺伝子(multi gene family)についてはゲノム進化の過程で、どのように作り出されてきたのかに興味がもたれている。本研究では以上のような視点からゲノムを構成する中程度反復DNAについてその種類と量について調べることを目的としている。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)およびその近縁種であるオナジショウジョウバエ(Drosophila simulans)のλファージを用いたゲノムライブラリーを作製した。これからランダムにクローンを抽出し、in situ hybridizationによって唾腺染色体上の位置をマッピングすることにより、反復配置を含むクローンの同定を試みた。キイロショウジョウバエゲノムライブラリーからは約800のクローンを抽出し、このうち231個のクローンのマッピングを行なった。その結果89個の反復配列を含むクローンを同定した。これらはコピー数に関して明らかな二峰性を示し2〜9個の小数コピーを持つものと10個以上の多数コピーを持つグループからなっており、前者が61クローン、後者が287クローンであった。これらをプローブとしてオナジョウジョウバエの唾腺染色体にin situ hybri-dizationしたところ、前者のグループは染色体の相同場所にほぼ同数マッピングされるのに対し、後者では場所はまちまちであり、またコピー数も減少した。このことは前者の多くは重複遺伝子を含むものであり、また後者の多くはトランスポゾンであると推定される。現在これらのクローンについてその分子的な構造の解析を行い、既知のトランスポゾンとの照合、制限酵素地図の作製、一部の塩基配列の決定などを行なって進めている。
|