北太平洋亜寒帯海域で前年度に得た試料を用いて、植物プランクトンが生成した溶存態有機物の同定する事を試みた。溶存態有機物としては、海水から比較的容易に単離できる脂質成分に焦点を当てた。 ^<13>Cをトレーサーとしてインキュベーション実験を行った試料の濾過水から、クロロホルム・メタノールの溶媒により脂質成分を抽出した。この溶存の脂肪酸の成分をガスクロマトグラフ(GC)により明らかにしたところ、炭素数16及び18の飽和脂肪酸が主要な構成分であった。これは、この海域の懸濁粒子が多不飽和脂肪酸を多く含むことを考えると、懸濁粒子と溶存成分の間には、脂肪酸組成に関しては密接なつながりが無いことを示唆している。 この脂肪酸について、ガスクロマトグラフー質量分析計(GCーMS)を用いることにより脂肪酸を構成している炭素の^<13>C同位体比を見積もった。算出された^<13>C同位体比は、インキュベーション試料の懸濁成分の脂肪酸の^<13>C同位体比に比べ、極めて低いものであった。これは、植物プランクトンによる溶存の脂肪酸の生成量が極めて低いことを示唆している。しかしながら、不飽和脂肪酸の生成に関しては、溶存有機物に含まれる濃度が低いため、^<13>C同位体比の見積が不可能であった。 懸濁粒子中に含まれるバクテリア固有の脂肪酸の同位体比から、浮遊藻類から細菌類への炭素のフラックスを見積もることを試みた。算出されたバクテリア固有の脂肪酸の生成量(植物プランクトンより生成された有機物を用いたもの)は、植物プランクトンによる脂肪酸の生成の1%程度を占めるに過ぎず、植物プランクトンからバクテリアへの炭素の流れは、大量ではないことが示唆された。
|