研究概要 |
砂泥性潮間帯,いわゆる干潟に生息するスナガニ科の1種,チゴガニが示す特異ななわばり防衛行動である近隣他個体に対するバリケ-ド造りと巣穴ふさぎ行動が,摂餌活動や繁殖活動とどのように結びはいたものかを明らかにすることを目的として本研究を行った。まず雄個体の行動を長時間記録し,バリケ-ド構築や巣穴あさぎを頻繁に行っている季節と,そうでない季節,さらに同じ季節の中でこれらのなわばり行動をよく行っている場合とそうでない場合について,摂餌活動と求愛行動の強度を比較した。その結果,バリケ-ド構築や巣穴ふさぎが頻繁に見られる時は,摂餌行動はむしろ低下し,求愛行動であるwavingの頻度が高いことが明らかとなった。従って,これらのなわばり行動は,摂餌よりも繁餌活動とより密接に結び付いたものであることが示唆される。さらにバリケ-ド造りや巣穴ふさぎが,繁殖活動,時に雄の求愛行動において実際に有効に機能するものかを明らかにするため,放浪雌が雄とペア-を組むまでの過程を記録し,その中で雌がペア-形成に至らなかった雄と至った雄の間で,近隣の他個体の巣穴に対するバリケ-ド構築の程度や巣穴の位置を比較することを試みた。しかしこれについては,今年度だけでは比較できるだけの観察例数を充分量集めるには至らなかった。一方,なぜチゴガニでこのようなバリケ-ド構築や巣穴ふさがといった特異ななわばり行動が発達してきたのかを考察するため,チゴガニに最も近縁とみられているハラグクレチゴガニを取り上げ,なわばり防衛行動を中心にした生態的諸特性を明らかにするための観察を,日本における限られた分布地である有明海周辺で行った。その結果,本種でも巣穴ふさぎ行動は見られるものの,バリケ-ド造りは見られないこと,ただしその他の個体間関係はチゴガニに極めてよく似ていることが明らかとなった。
|