日本産のモンシロチョウ属、モンシロチョウ(以下モンシロ)、スジグロシロチョウ(スジグロ)、エゾスジグロシロチョウ(エゾ)の3種は、全国に分布し、いずれもアブラナ科植物を利用している。従来の知見では、本州以南ではスジグロはタネツケバナ属の植物を、エゾはハタザオ属の植物を利用しているが、北海道では両種ともタネツケバナ属を利用しているとされ、図鑑類にも記載されてきた。エゾは、北海道と本州以南では別の亜種とされ、亜種によって食性が異っている。 そこで、本州産エゾと北海道産エゾの食性の違いを再確認するために、6月京都市北部と札幌市内において、アブラナ科各種の植物上より卵を採集し、25℃で飼育したところ、北海道のタネツケバナ属コンロンソウから採集したものは、エゾに非常に似ているがスジグロと思われた。外部の専門家に成虫の同定を依頼したところ、形態、斑紋のみでは識別不能で、発香鱗の顕微鏡観察の結果、スジグロとの回答を得た。北海道産のエゾは、帰化植物であるイヌズラシ属のキレハイヌガラシより採集された。 さらに8月、北海道で採集したエゾ成虫とスジグロ成虫を用いて産卵選好実験を行ったところ、エゾはイヌガラシ属をスジグロはタネツケバナ属を選好した。北海道産のエゾがコンロンソウを選好しなかったことは当初の予想と大きく異なるが、いずれにしても本州産のものとは異なり、ハタザオ属を選好することはなかった。北海道産のエゾが近年導入された帰化植物に依存していることは、適応度が上がるなら、食性は比較的短い期間に進化する可能性があることを示唆している。
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