今年度の札幌市八剣山付近での調査により、エゾスジグロシロチョウは、キレハイヌガラシの他にタネツケバナ属のコンロンソウ、ハタザオ属のエゾイワハタザオ、クモマナズナの3種も利用していることが分かった。とくに、北海道でも京都と同じようにハタザオ属の植物を利用している事実は、本州と北海道のエゾスジグロシロチョウがかつては食性を同じくしていた可能性を示唆し、食性の進化を解く上で重要な発見であった。しかし、このことは本研究の前提であった北海道と京都でのエゾスジグロシロチョウの産卵植物が異なる点を改めるものではないが、問題を複雑にさせた感がある。 京都におけるエゾスジグロシロチョウの産卵実験の結果、ハタザオ属植物と同じ生育場所に生えるアブラナ科の他の潜在的な産卵植物は、忌避され、生育場所外に生える植物には産卵されることが分った。このことは、産卵植物選択には、(1)産卵植物の生育場所選択と(2)産卵植物そのものの選択の2つの段階があり、多くの植物は、生育場所選択の段階で忌避されていることを示している。 本州における現象をそのまま北海道にあてはめると、キレハイヌガラシは本来(1)の段階で忌避されるべきもので、コンロンソウは(2)の段階で忌避される植物である。しかし、北海道ではそのいずれもが忌避されずに産卵されている事実は、たんに食性の進化にとどまらず、食性の転換によって引き起こされる、生活史のさまざまな局面において現われる形質の変化に与える影響も明らかになる可能性を示唆している。
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