平成4年5月から、12月にかけ、約1回/月の頻度で、東京湾北西部に設定した4定点で、3〜4m毎に表層から低層までの4あるいは5水深で採水した。試水をGF/Fろ紙にてろ過し、光合成色素を90%アセトンにて抽出し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析した。東京湾で主に見られたカロテノイドは、フコキサンチンとペリジニンであり、これらを特有カロテノイドとする珪藻と渦鞭毛藻の存在が示された。また、試水を検鏡・固定して得られた結果と、色素量から計算した結果の間には良い相関が得られた。 本研究の方法で重要なパラメーターは、植物プランクトン各網のカロテノイド/クロロフィルaの比であるが、主要な植物プランクトンである珪藻についてのフコキサンチン/クロロフィルa比は東京湾の試料につき重量比で1.1±0.2と求められ、昨年度夏期に行った瀬戸内海での実験で得られた値1.1±0.1と良く一致していた。東京湾におけるこの比は季節によって0.8〜1.3の範囲で変動し、同じ珪藻網でも海域における優占種の違いによる差が示唆された。 東京湾で得られた試料のクロマトグラムは大変複雑で、一見一つのピークに見えても複数の色素を含む物が多くみられた。本年度は、新たな計算機プログラム(約6000行)を開発し、複合ピークの解析を可能にした。複合ピークは、可能性のある色素の全ての組み合わせに付いて解析し、赤池の情報量基準を用いて、その中から最適の色素の組み合わせを求めた。この方法で、クロロフィルの分解物であるフェオフォルビッドと重なるカロテノイドの定量が可能になった。通常は分解が困難であるα-カロテンとβ-カロテンの組、また、同様の関係にあるゼアキサンチンとルテインの組も、計算機により分離定量できた。ゼアキサンチンは、多くの種類の植物プランクトンに含まれるが、通常その存在量は少ない。しかし、藍藻には特徴的に多く含まれ、ゼアキサンチンが定量できるようになった意義は大きい。
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