植物の細胞壁の物性はそれを構成する分子、特にマトリックス多糖によって規定される。本研究は、マトリックス多糖の中でも成長調節に深くかかわっているキシログルカンとアラビノキシランの合成・分解酵素のcDNAクローニングをめざし、以下の結果を得た。 (1)マトリックス多糖分解酵素:アズキ上胚軸細胞壁よりNaClで可溶化されるタンパク質画分に含まれるキシログルカン分解酵素およびその側鎖を分解するα-フコシダーゼを、Con A-Sepharose、Mono S、Superdex75およびPhenyl Superoseカラムを用いて精製した。キシログルカン分解酵素活性は、Mono Sカラム上で3つのピークに分かれた。また、α-フコシダーゼ活性は、pH5.8でMono Sカラムに吸着する部分と素通りするものとに分けられた。これらの実験結果は、両酵素が酵素群を構成することを示唆している。 (2)マトリックス多糖修飾酵素:アラビノキシランのアラビノース残基にフェルラ酸(FA)がエステル結合している。このFAは酸化的カプリング反応を行い2量体のジフェルラ酸(DFA)を形成し、その結果アラビノキシラン分子間に分子架橋が構築されて、細胞壁の伸展性が低下する。このFAをエステル結合させる酵素活性の検出を試みた。イネ幼葉鞘から得た酵素標品には多糖分子の合成と修飾が行われるゴルジ体を含む分画を用いた。また、基質には、アラビノキシランと合成したFA-CoAを用いた。FAの転移反応の検出を試みたが、酵素標品中のエステラーゼ活性が強く、FAのアラビノキシランへの結合は認められなかった。現在、エステラーゼの除去に努めている。 研究期間内にcDNAをクローニングするには至らなかったが、本研究によって、マトリックス多糖の合成と分解に関与する酵素のcDNAのクローニングに近づくことが出来た。
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