研究概要 |
これまでに採集し単離した培養株のうち,他の黄色植物群との類縁を探るために鍵となると思われる,珪藻の中でも原始的な中心目珪藻に焦点を当て生活環の解明を試みた.これまでにタルケイソウ(Melosira)とアクチノキクルス(Actinocyclus)で有性生殖の誘導に成功した.両種とも雄性配偶子は,前端に一本の鞭毛をもつ遊走細胞(精子)で,一個の精母細胞から4個形成された.しかし,その形成過程は全く異なっていた.タルケイソウでは精母細胞の細胞質が均等に4分割して精子がつくられるため,各々の精子には精母細胞由来の数個の葉緑体が含まれていた.しかし,アクチノキクルスでは精母細胞の一部のみが分割し,葉緑体を含まない精子がつくられた.そして,残った大部分の精母細胞の細胞質は捨て去られる結果となった.雌性配偶子(卵)は両種とも一個の栄養細胞から一個つくられた.タルケイソウでは受精の際の精子の浸入を可能にするため,受精に先立ち生卵器をくの字に折曲げ,上殻と下殻のとの間に僅かな隙間がつくられた.この隙間を通って精子は浸入した,この時精子は鞭毛を付けたまま卵細胞中に浸入することが明らかになった.この事実は全くの新知見であり,現在論文にまとめ投稿準備中である.アクチノキクルスの受精過程は現時点では不明であり,今後の課題である.両種とも受精卵は徐々に膨潤し,球状の増大胞子となった.電顕観察からこれらの増大胞子の表面には多数の鱗片状の珪酸物が存在することが確認された.この鱗片状構造物は黄色植物の一群である黄金色藻のパルマ類に見られる珪酸構造物と類似しており,両者の類縁を考える上で重要な手がかりになるものと思われる.羽状目珪藻ではイチモンジケイソウ(Eunotia)の有性生殖の誘導に成功しており,現在解析を進めている.
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