本研究は珪藻植物の有性生殖を人為的に誘導し、生活環を明らかにすると共に、その初期発生過程で見られる増大胞子被覆の構造を手がかりに、珪藻群内の類縁関係を解析することを目的に行った。その結果、以下に示す4分類群の有性生殖が明らかになり、珪藻群内の系統類縁関係を知る上での貴重な知見を得ることができた。 1)Melosira moniliformis var.octagonaの生活環: 逆同株。精子は全割型形成によって、1細胞から4個の精子が作られる。卵は栄養細胞から直接減数分裂を経て、1個作られる。これは以下の3種でも同様であった。受精は、生卵器の隙間から精子が侵入して起こる。この時精子は鞭毛を付けたまま卵細胞内に侵入する。この事実は新知見であった。受精卵は膨潤し増大胞子となり、その中に新たな殻を形成し、大形の栄養細胞となる。増大胞子の被覆は鱗片であった。 2)Actinocyclus sp.の生活環: 逆同株。精子は部分割によって、1細胞から4個作られる。受精卵は膨潤し、球形の増大胞子となる。増大胞子被覆は鱗片であった。これは本属で初めての観察である。母細胞の直径が約30-50μmであった。 3)Thalassiosira lacustrisの生活環: 逆同株。精子は部分割によって、1個造精器の中に8個作られた。受精卵は膨潤し球形の増大胞子となった。本種においてもその被覆は鱗片であった。母細胞は30μm前後で、増大後は80μm以上となったのに対し、初生細胞は90-130μmであった。 4)Eunotia tropicaの生活環: 雌雄異株。雌雄異株の珪藻は極めて稀で、本種が3例目であり、有縦溝亜目では初めてである。対合したそれぞれの細胞に1個の配偶子が作られ、それらが接合して増大胞子となった。この増大胞子は帯状構造物で覆われていた。その一部には鱗片と類似の構造が見られた。
|