ミトコンドリア融合とDNA組換えの動的・分子形態学的解析

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03640579
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 河野 重行 東京大学, 理学部, 助教授 (70161338)
• キーワード: ミトコンドリア / ミトコンドリア融合 / ミトコンドリア核融合 / ミトコンドリア・プラスミド / mtDNAの組換え / DNA末端 / ミトコンドリア融合遺伝子(mif) / 真正粘菌Physarum polycephalum

研究概要

真正粘菌のミトコンドリアはアメ-バ(n)の接合期と変形体(2n)の子実体形成期に融合し、mtDNAの高頻度組換えを引き起こす。この融合にはミトコンドリアのプラスミドが直接関与している。ミトコンドリア非融合株のmtDNA(M型)は約86kbpの線状分子で、約20kbpの同方向に並んだ重複領域を末端付近に持ている。このM型のmtDNAを持つアメ-バ株に、融合株でN型のmtDNAとプラスミドを持つアメ-バ株を交配した。この交配によって得られた変形体にはプラスミドとどちらの親型とも異なる組換え型のmtDNAが遺伝していた。組換え型mtDNAを調べたところ、それは基本的には非融合株のもので、重複領域にプラスミドが挿入されていることがわかった。プラスミドは約125bpの繰り返し構造を末端に持つ約16kbpの線状分子であり、この挿入によってプラスミドの末端が組換え型mtDNAの新たな末端になっていた。挿入領域の塩基配列を調べたところ、mtDNAとプラスミドの両方に477bpのほぼ完全な相同配列が存在しており、プラスミドは相同組換えによって挿入されることがわかった。ミトコンドリア融合株から融合欠損株を単離し、そのmtDNAを解析したところ、全ての融合欠損株でプラスミドの挿入領域の一方の近傍が約300bp欠失しており、この領域にミトコンドリア融合遺伝子が存在することが明らかになった。真正粘菌の予実体形成期は同調的に誘導でき、胞子内ではミトコンドリアは融合した状態で静止している。胞子内の多核ミトコンドリアの出現頻度をDAPI蛍光顕微鏡法で解析し、ミトコンドリア融合頻度に差異のある株を単離した。これらの株を交配し、融合頻度を制御する細胞核の複対立遺伝子(mitAlー3)の存在を見いだした。このようにしてミトコンドリア融合遺伝子と融合頻度の制御遺伝子が同定できたことで、ミトコンドリアの融合を任意に制御し、ミトコンドリア融合とmtDNAの組換えの分子機構を動的・分子形態学的に解析することが可能となった。

研究成果

• [文献書誌] Kawano,S.: "The life cycle of mitochondria in the true slime mould.Physarum polycephalum." Bot.Mag.Tokyo. 104. 97-113 (1991)
• [文献書誌] Kawano,S.,Takano,H.,Mori,K.& Kuroiwa,T.: "A mitochondrial plasmid that promotes mitochondrial fusion in Physarum polycephalum." Protoplasma. 160. 89-98 (1991)
• [文献書誌] Kawano,S.,Takano,H.,Mori,K.& Kuroiwa,T.: "The oldest laboratory strain of Physarum polycephalum in the world." Physarum Newsletter. 22. 70-78 (1991)
• [文献書誌] Takano,H.,Kawano,S.& Kuroiwa,T.: "Telomeric strutures in a linear mitochondrial plasmid from Physarum polycephalum." Curr.Genet.20. 315-317 (1991)
• [文献書誌] Kawano,S.,Takano,H.,Imai,J.,Mori,K.& Kuroiwa,T.: "Agenetic system controlling mitochondrial fusion in the slime mold,Physarum polycephalum." Genetics. (1992)
• [文献書誌] 河野 重行: "ミトコンドリアの性" 遺伝. 46. 73-79 (1992)