本研究の目的は、色素体DNA結合蛋白質の分子種に基づいて、色素体の新しい分類法の可能性を探ることにある。本年度は、色素体DNA結合蛋白質を同定するために必要な、免疫細胞化学的方法を開発することを行った。その結果、タバコ培養細胞に含まれる原色素体DNA結合蛋白質に対する抗体を用いて、まず単離色素体核に対して蛍光抗体法を適用したところ、適度な濃度のプロテア-ゼKで処理することにより、確実に抗原を検出することができることが解った。そこで次にこの前処理済みの単離原色素体核をテクノビット樹脂に包埋して切片を作製し、その切片上で蛍光抗体法を行ったところ、予想に反してまったく抗原を検出することができなかった。包埋の過程において、何か抗原性を損なわせる処理が含まれていると考え、1ステップずつ検討したところ、エタノ-ルやアセトンなどの有機溶媒による脱水処理の過程でその濃度が70%を越えると不可逆的に抗原性が失われることが解った。しかしながら、アセトンに1%のノニデットPー40を加えておくと、抗原性が保持されることを見いだした。また、ノニデット存在下で脱水した後に、やはり同様にノニデットを含むテクノビット樹脂に包埋しても、抗原性は損なわれなかった。これらの結果から、脱水剤としてアセトンを用い、また脱水・包埋の過程で常にノニデットを小量加えておくことで、この原色素体DNA結合蛋白質を免疫細胞化学的に検出することが可能であることが解った。来年度はこれらの実績に基づき、さらに植物体の各組織におけるこの蛋白質の存在場所を調べる予定である。
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