研究概要 |
本年度はミズゴケ類,クロゴケ類,スギゴケ類を中心に研究を行なった.クロゴケ科ではスギゴケ科との類縁性を暗示するような胞子母細胞の形態は認められず,球形であることが明らかになった.しかし,クロゴケ科では形成直後の胞子四分子状態の各胞子の壁は著しくしわになり,4個の胞子は胞子母細胞壁の内部で密に重なり合っていて,胞子母細胞壁の裂開によって放出されると急速に膨潤,膨大化することが観察された.この特徴は他の蘚類のどの群にも見られないもので,さらにその形態学的詳細について追及することによって,分類形質として評価できると期待される.スギゴケ科の蘚類としてこれまでArichum,Polytrichum,Polytrichastrum,Pogonatum属で胞子母細胞がテトラボッド型のくびれを確認しているが,不明であったフウリンゴケ属Bartramiopsisでの情報を本年度収集できた.その結果,予想とは異なり,球形の胞子母細胞をもつことをつきとめた.これによってテトラボッド型の胞子母細胞がスギゴケ科を特徴づけるであろうという当初予想に反する結果となった.しかし,フウリンゴケはスギゴケ科にあって,朔歯を欠くこと,葉縁にシリアを持つなどの特異な形質をもつことで際だっている.そのため,それをスギゴケ科に属させるのが妥当かどうかという新たな検討課題が提起されることになった.ミズゴケ類については標本 庫,野外調査にもかかわらず減数分裂時期の胞子体を得ることができなかった.これは,胞子体が通常の蘚類のように苞葉から現われて発達,成長するのでなく苞葉内部で既に朔が完熟してしまうという特殊な発達様式をもっているために著しく採集が困難であることがわかった.苞葉内で朔が完熟状態に至るという現象は苔類では一般てきであるが,蘚類では特異なものである.この特徴も系統を論ずる上で無視することのできないものであると考える.
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