被子植物の花粉発生過程において、減数分裂終了後の一核性花粉細胞は半数性の不等細胞分裂を行い、構造的、機能的に大きく異なる生殖細胞と栄養細胞を形成する。本研究では、この不等細胞分裂に至るまでの核・細胞質(色素体、ミトコンドリア、細胞骨格、Caイオンなど)の極性変化を近年開発された種々の細胞生物学的手法を用いて詳細に調査し、不等細胞分裂の主要因を形態学的にとらえることを主目的とした。 まず、不等細胞分裂後の栄養細胞にはオルガネラ核DNAが認められるが、生殖細胞には検出されない(母性遺伝)。これは不等細胞分裂時の極性に基づくと予想し、花粉細胞の脱殼細胞やプロトプラストをDAPI染色し蛍光顕微鏡観察を試みた。ところが、DAPI押しつぶし標本では、顕著な極性が観察できなかった。そこで、新たに倒立顕微鏡に蛍光装置を設置し、脱殼細胞やプロトプラストの形を維持したままでの観察を試みた。しかしながら、倒立観察での表層部分の観察はある程度可能であったが、内部の詳細な観察はやはり因難であることがわかった。そこで現在、さらに新たな試みとしてレ-ザ-走査蛍光顕微鏡による解析を進めている。レ-ザ-顕微鏡は励起光として紫外線が使用できないため、DAPIに代わる蛍光色素ならびに二重染色の条件の検討をこれまでに行った。 一方、不等細胞分裂に先立ち、細胞核は細胞の一端に移動する。この核移動の機構を探るために、減数分裂後の花粉細胞を用いて正常な核移動を再現させる培養系を完成し、これに細胞骨格系阻害を添加して核移動への影響を調査した。その結果、細胞の中央から一端への核移動は、コルヒチンでは阻害されないが、サイトカラシンでは阻害されることがわかったので、現在アクチン繊維の挙動を調査中である。
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