被子植物の花粉発生において、減数分裂終了後の一核性花粉細胞(花粉小胞子)は半数性の不等細胞分裂を行い、細胞の一端に雄性配偶子(精細胞)の前駆細胞である生殖細胞(雄原細胞)を小細胞として形成する。この不等細胞分裂のためには、分裂に先立ち、核は細胞の一端に移動、維持されなければならない。雄性配偶子の分化に必須なこの現象の細胞生物学的機構をテッポウユリにおいて調べ次の知見を得た。 (1)核移動は一核花粉細胞周期のG_1期に起こり、その移動はまず楕円体の中央から短軸端へ、引き続いて短軸端から長軸端へとほぼ連続的に起こる。 (2)減数分裂直後の一核性花粉細胞をWhiteの無機塩を基本とした培地で3日間培養すると、約80%の細胞において正常な核移動が起こる。 (3)上記(2)の培養系にコルヒチン(0.2%)を添加しても、核移動は阻害されず、むしろ核移動が早まる傾向が見られた。 (4)上記(2)の培養系にサイトカラシンB(0.002%)を添加すると、核移動はほぼ完全に阻害された。また、この阻害効果はサイトカラシンBの除去にって一部回復した。 以上の結果より、一核性花粉細胞の核はアクチン繊維の働きによって一端に移動すると考えられた。しかしながら、ユリの花粉細胞は厚い外壁をもつため、この移動過程におけるアクチン繊維の動態はまだとらえられていない。そこで、現在共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡により観察、ならびに花粉四分子のプロトプラスト培養による核移動を調査中である。
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