本年はマツバランについて主に研究を行った。マツバランの地下茎は葉も根ももたず、不規則に分枝し、時々地上茎を分出する。一方地上茎は突起様の葉を作り、二又分枝を繰り返す。地下茎は形態学的には根冠をもたず根とは考えられないが、機能上は根として働いている。 地下茎の頂端分裂組織には四面体形の頂端細胞が1個存在し、3側面で規則的に派生細胞を切り出している。派生細胞も細胞分裂を繰り返し1つの細胞群を作っていく。これらの派生細胞群内に斜めの細胞分裂が起こり新しい頂端細胞が形成される。新しい頂端細胞はすぐに独自の派生細胞を切り出し新たな頂端分裂組織を形成する。新頂端分裂組織が勢い良く成長して元の軸とほぼ同じ大きさになれば外見上二又分枝となり、成長が抑えられれば側枝となり、更に極端に成長が抑えられれば休眠芽となる。新頂端分裂組織の形成位置には全く規則性が見られず、このため地下茎の分枝はあらゆる方向で起こり不規則な分枝が行われる。 地上茎の分化については未だ定説がない。地上茎の基部には多数の休眠芽が存在することから、地下茎の側枝のあるものが何らかの原因で地上茎に分化すると思われる。地下茎がそのまま地上茎に転換したかに見える場合もある。地上茎の先端を土に埋めると地下茎へ転換してしまい器官学的にも地下茎と地上茎との分化はあまり明瞭ではない。 マツバランの地下茎は根を持たない原始的な根茎と解釈されるのが一般的であるが、全く葉を作らないという点で茎の基本概念にはあてはまらない。イワヒバ層の担根体がもっぱら根を作る軸状器官で、維管束植物の根、茎、葉に匹敵する第4の基本器官であるとすると、マツバランの地下茎も根、茎、葉以外の独立の軸状器官と考えるのが妥当と思われる。
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