本研究により熱帯産イワヒバ属3種の担根体は、3回-5回二又分枝を行った後、始めて根を内生的に形成することが明らかにされた。根の形成様式は既に筆者らによって報告されたコンテリクラマゴケの場合と同様であった。すなわち根が分化する前に担根体の頂端細胞は消失し、根の始原細胞は新たに担根体組織の内部に形成される。担根体頂端細胞と根の頂端細胞との間には発生上の不連続が見られる。これまで多くの研究者によって用いられてきたイワヒバ属はコンテリクラマゴケも含めて温帯種である。これらは熱帯種に比べ大きさが小型であり、担根体本来の分枝という質性を示さずすぐに根を形成してしまうものと思われる。担根体は根の一部(地上根)にすぎないとする考えが一般的であったが以上の結果より担根体は単なる地上根ではなく、二又分枝を繰り返し根を内生する独立の軸状器官であるといえる。 マツバランの地下茎は葉も根も作らず、不規則に分枝し時々地上茎を分枝する特殊な器官である。本研究より地下茎の頂端分裂組織は単軸分枝状に分裂することが明らかになった。すなわち元の頂端細胞の近くの表層細胞、つまり頂端細胞の派生細胞由来の細胞から新しい頂端細胞が切り出される。ただし新頂端細胞はあらゆる方向に形成され、形成位置には規則性は全くみられない。新頂端細胞が活発に分裂して頂端分裂組織が早くに大型になれば外見上二又分枝のように見える。新頂端細胞の分裂が弱ければ側枝となり、更に抑制されれば休眠芽となる。地上茎と地下茎との分化も不明瞭で、地下茎の側枝のあるものが何らかの要因により地上茎に分化する。また地下茎がそのまま地上茎に転換したかのごとく見える場合もある。マツバランの地下茎は根茎と考えるのが普通であるが、葉も根も作らず、分枝を繰り返す軸状器官であることから、根茎、葉とは独立の器官と考えるのが妥当と思われる。
|