ノンスパイキング介在神経のシナプス統合作用での樹状突起膜の生理性質の働きを解明する目的で、アメリカザリガニProcambarus clarkiiの腹部最終神経節で同定されるLDS細胞を用いた単一電極膜電位固定実験を行なった。実験を行なったときのガラス管微小電極の細胞内刺入部位は、これまでに開発した励起光落射照明装置により、蛍光色素を注入した細胞の形態と共にin situで実体解剖顕微鏡下で同定した。 LDS細胞の樹状突起膜は、どの部位においても細胞内電流注入に対して外向き整流を示した。すなわち脱分極性電流に対する入力抵抗は過分極性電流に対する抵抗と較べて有意に小さい。また入力抵抗の減少に伴い、ステップ電流注入に対する膜応答の時定数も脱分極側で短かく、過分極側で長い。感覚入力に対するシナプス応答の時間経過も脱分極側で短かく、過分極側で長いという観察結果が得られた。但し、入力抵抗および膜応答時定数は、三次突起部位と較べて中心線上のブリッジ構造部位で有意に小さい値が得られ、部位差が存在すると考えられる。 外向き整流作用の生理機構を明らかにするため、ブリッジ構造部位にガラス管微小電極を刺入して単一電極膜電位固定実験を行なった。LDS細胞の膜電位を静止電位レベルに保持・固定しておいてから過分極方向(10〜50mV)にステップ固定すると内向きリーク電流のみが観察されたが、脱分極方向(10〜50mV)に固定すると外向きリーク電流に重畳する他の外向き電流が記録された。この外向き電流は電位依存性で、ステップ固定と同時に一過的に流れ、その後定常状態に到るという時間経過を示した。定常電流は10mMのTEAかん流により70〜80%に減少したことから、この電流は、神経細胞一般に知られている遅延整流型K^+電流によるものと推定される。初期の一過型電流のイオン機構については今後の検討が必要である。
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