哺乳類の多精拒否機構の解明をめざし、体外受精法でブタ受精卵を調製し受精による透明帯の特性や構造の変化を調べた。1.濾泡期の卵胞をもつブタ卵巣から卵丘に包まれた卵子を採取しTCM199A液中39℃で48時間5%CO_2下で培養し卵子を減数第二分裂中期まで成熟させた後、受精培養液に移した。2.一方、ブタ副精巣尾部から採取した精子をTCM199B液中37℃、70分間5%CO_2下で保温し受精能を獲得させた。3.成熟卵子に精子を媒精し39℃で12時間保温した。培養過程の卵子の状態は適時万能倒立顕微鏡(本補助金で購入)で観察し条件を検討しつつ実験を進めた。上記条件下で90%以上の受精率が達成された。4.卵巣内の未成熟卵子、成熟させた卵子および受精卵から透明帯を調製し、まず0.2%プロナーゼや希酸(pH3.6)による溶解速度を測定したところ、受精卵透明帯は40%ほど溶解速度が遅くなり、受精で透明帯が硬化するマウスで既報の現象がブタでもみられた。また温和な条件下FITCで透明帯をラベル後溶解しゲル濾過HPLCにかけ比較した結果、パターンに顕著な変化は見られず、微量画分ながら透明帯の単位構造の外側に位置するPZP2が最も修飾され易いことがわかり、透明帯全体の構造は大きくは変化しないものと思われた。しかし受精卵透明帯に結合する精子数が大巾に減ることから精子レセプターなどの微細な変化は起きていることが確認された。5.二次元泳動や二次元目は還元状態で行なう対角線電気泳動で詳細に調べたところ、PZP2に含まれる90K蛋白質のみが受精後完全に消失することがわかった。1万個以上の受精卵を得るという当初の目標に達せず、交付申請書に記したCDの測定とペプチドのマッピングはできなかったが、今後更に受精卵の調製に務める一方、蛍光試薬で修飾後酵素消化したペプチドをマッピングするなどの分析の微量化も計りたい。
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