研究概要 |
「9+2」構造は,真核生物の鞭毛・繊毛全般に見られるconservativeな構造であるにもかかわらずその機能的意義は明らかではない。鞭毛や繊毛の運動は,周辺小管の滑り運動に基づくものであるが,多くの鞭毛では,この滑り運動から平面的な波が形成される。本研究では,ウニ精子の頭部に強制的に加える実験を行い,その鞭毛波形および屈曲面の解析から,9+2構造における微小管滑り速度の制御および平面波形成の機構を解明することを試みた。除膜後ATPで再活性化したウニ精子の頭部をガラス微小ピペットで吸引して保持し,そのピペットにさまざまな周波数で振動を加え,さらにさまざまな速度で振動の面を変化させた。この時の鞭毛運動の波形を記録・解析した。9+2構造における滑り運動の制御には,中心小管が関与している可能性がある。そこで中心小管に外部から力を加えた状態で,振動面を回転させる実験を試みたが,この時振動面の回転中に中心小管をおさえた針がはずれることがしばしば起こり,付着させる方法を改善する必要があることがわかった。今後鞭毛先端の保持の方法について検討を重ね,中心小管が屈曲面の回転に直接関与しているかを明らかにする。一方,さまざまなATP濃度(10μM〜4mM)の溶液中で,振動の周波数を変えたときの鞭毛波形を解析し,その時の微小管滑り速度を鞭毛打頻度と屈曲角度との積の2倍として求めた結果,100μM以下では,滑り速度は鞭毛打頻度の減少とともに減少したが,100μM以上では,振動を与えないときの鞭毛打頻度より振動数が低いときには,振動数の減少とともに速度も減少するのに対し,振動数が振動前の鞭毛打頻度より高い場合には振動数を増しても滑り速度はほとんど一定であった。この結果は,鞭毛運動中の微小管滑り速度は,ATP濃度のみによって一義的に決定されないことを示す。
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